××××××××

そんじゃここまでだ、さよなら

section-38

普通になりたいとずっと思って生きている。こういうことを言うと「そういうこと言うやつってだいたいめっちゃ普通だよね」「大した苦労もしてないくせに自分を普通じゃない認定すんじゃねえ」って言われがちなんだけど、わたしは物心ついてからずっと、普通になりたいと思っていた。じゃあお前の言う普通ってなんなんだって言われるとどうにも答えようがないんだけど、普通ってなんなんだってわたしに尋ねられるくらいにはあなたは普通に染まって生きてきたのねと思ってしまうところからなんだと思う。

就活の面接とか、面談とか、職場の人との世間話の中で「どうやって生きていきたいか」「どんな社会人になりたいか」「10年後、20年後にどうなっていたいか」という質問をされることが多い。噛み砕いて言えば「あなたのライフプランを教えてください」というものなのだけど、わたしにはそのライフプランというものがないのだ。ひとりで生きていけるだけのお金を稼いで、死ぬまでの時間をひとりで生きて行く。以前ニッチェの近藤さんがなにかの記事の中で「独りで生きて行く覚悟を決めていたから、大抵のことはひとりでなんでもできるようにならないといけないと思っていた」とおっしゃっていて、わたしはその記事を読んで大いに頷きながら泣いていた。ほんとうにその通りで、それはそっくりそのままわたしの人生計画だったのだけど、他人が言っているのを聞くとこんなにも哀しい響きを持つものなのかと思って、客観的に泣けてきてしまったのだ。

「まだ若いんだからこれからいくらでも出会いがあって別れがあって、そのうち結婚相手とかも見つかるよ」「人生なにがあるかわからないから案外ポッと結婚しちゃうかもよ」「なにごとも経験だよ」なんて言ってくださる方もいらっしゃるんだけど、そういう類の言葉を聞くだけで涙が出てしまうのだ。そのどれも選べないわたしはただのカスで、燃え尽きるまでの人生を浪費しながらただ呼吸をしていくしかないのだ、と思ってしまう

いやもしかしたらほんとうにそうなのかもしれない。わたしがまだ出会っていないだけで、こんなカスみたいなわたしでもいいと言ってくれる人があらわれるのかもしれない。こんなカスみたいなわたしでも受け入れられるような人があらわれるのかもしれない。だけどその人にわたしがあげられるものなんてないのだ。わたしにはできない。何も。わたしは何ももっていない。だれかを受け入れられない。生きていけない。選ばないんじゃなくて、選べないのだ。

ひとりで生きていくということを選択しているのはわたしなのに、自分の性的指向や精神の未発達さを冷静に見つめて、わたしはわたしにそれを「選ばされている」と思ってしまう。不本意な選択をしているんだと思っている。選びたいものを選べなかったから仕方なくそれを掴み取るしかなかった。生まれる順番を自分で決められないのと同じように。両親を子どもが選べないのと同じように。わたしもほんとうはみんなみたいにだれかと手をつないで歩きたい。だけどわたしは正当なハグを拒んでしまう。だれかと親密になって、だれかを大切に思う自分の価値を認めてあげられない。

「恋人ほしくないの?」と聞かれて「全然ほしくない」と答えるが、それはまったく嘘ではない。もともと「恋人」という言葉のもつ意味が好きではない。思い出を共有する人間は今のところまったく必要でない。だけどこの先もずっとそうなのだということを考えると、ズンと胸の奥が重たくなるのだ。ひとりでも平気って顔をしているくせに、ほんとうは独りじゃなんにもできない。好きだと思う人や恋人を作っていたら哀しいなと思うような人がいても、その人にとってのわたしの価値なんて燃えカス程度でしかないことを知ってしまっているからどうにもしようがなくなってしまう。手をつなぐことにだけ固執するわたしとでは、何の関係も結べないだろうから。

わたしがふだん感じているきもちをうまく言葉にできない。でも最近、結婚したり同棲したり、だれかと生きて行くことを選択するともだちが多くなってきて、自分で選んでひとりでいるくせにしんどいきもちでいっぱいになってしまった。じゃあ恋人でもつくればいいじゃないと言われても、それもできない。どうしてかと聞かれてもあんまりうまく言えないけれど、わたしにはできない。わたしの上位互換は、この世界にたくさんいる。それに、かみさまはわたしにその適性を与えてくれなかった。こんな最低な日々に早く火を投げてしまいたい。どんな選択をしても、わたしは自分の世界を救ってあげられない。

毎日毎日こんな意味のないことばかりをぐるぐる考えて、わたしはもう疲れてしまった。好きだと思った人にちゃんと好きだと言いたい。うまく言葉にできない感情を、ふだん自分が持っている感情をうまく伝える術がほしい。わかってほしいとは思わない。自分の感情を飲み込めるようにいくら願っても、どう頑張っても自分の気持ちを救えない。さっさと死んでしまいたい。そんなに悩むことかな、と言われてしまったらもうそれまでだ。人間の悩みなんてそもそもだれかに理解されがたい。共感されてもイラっとするけど、否定されると哀しいよ。ちゃんとした性別をくれ。そうしたら人を好きになって、その人に好きだって言いたい。異性でも同性でもどっちでもいい。なんでも受け入れられるなら、初めからちゃんと覚悟を持って好きだって言える。いや、浮ついた気持ちでも好きだって言えるだろう。無責任に好きだと言いたい。ちゃんとした性別と、愛着と、三大欲求をくれ。睡眠と食だけで生きている人間は、この世界では弾きものにされるみたいだから